“暴走” する39歳事務員、トモコさんとの仮交際をはじめたシシ坊。

しかし、日々老いてゆく40代の婚活は、時間との戦いです。
交際相手がひとりだけでは、もし破局してしまった場合に貴重な時間を浪費してしまうことになります。

そのためシシ坊はほかの女性ともカップリングし、仮交際の同時進行をしていこうと決意しました。
前回の記事はこちら↓↓
第27話: 終電黙殺すり足事務員トモコさん Part.5 (終)
■薬剤師マキさん(37)
トモコさんとカップリングした翌日、また婚活パーティに参加しました。
同じ業者の、同じ池袋の会場です。
五人ほどの女性参加者の中から、これは! という女性にねらいを定めました。
そのお相手はマキさん。37歳。

ドラッグストアにお勤めの薬剤師で、年収は550万円です。
薬剤師とのカップリングは、アユナさんにつづいて二人めです。

(資料こだわり薬剤師アユナさん編→こちら)
婚活パーティでは、医療関係者の女性に出会う確率はかなり高いです。
薬剤師のほかには看護師や医療事務、保健師や歯科衛生士の方にもよく出会います。
やはり女性中心で、出会いも限られる職場だからでしょうか?
マキさんは29歳のアユナさんより八歳年上でしたが、そのぶん収入も高く、職場では管理薬剤師という責任ある立場にいるとのことでした。

これは頼もしいですね。国家資格をもつ専門職の女性は、生計をともにする相手としては魅力的です。
また、女性ばかりの職場であれば、交際中に浮気されたり結婚後に不倫されるといったリスクも少なそうです。

シシ坊は彼女に浮気されてうつ病という致命傷を負ったため、女性の身持ちの固さにかなり敏感になっていたので、そういった安心感もかなり重要でした。
「今日お話した男性の中で、シシ坊さんが一番フィーリングが合う気がします」

「本当ですか!? じつは私もマキさんが一番しっくり来たと思っているんです」

トークタイムの最後にこのようなやり取りがあったので、シシ坊は(これはイケるぞ)と自信をふかめました。
そしてマキさんを第一希望としてカップリング希望を出した結果、めでたくカップルとなれたのです。
(これは、なかなか良い女性をつかまえたぞ……)
このときのシシ坊の満足感はかなり高かったのです。
これから、数々のとんでもない地雷が待っているとも知らずに……。
■チノパンとスニーカー

パーティ会場を出たとき、ちょうどお昼12時になるころだったので、ふたりで池袋のイタリアンレストランに入って食事をしました。
午前中の婚活パーティは、カップルになってそのままお昼ごはんに行くという、実質的な初回デートに持ち込めるのが良い点です。
仕事帰りの夜に行くパーティよりも体力があって判断力も冴えていますし、髪型や化粧も朝にバッチリ決めたばかりで、肌も張りがあるので、より良い自分を見せられるというメリットがあります。

シシ坊も例にもれず、この日は髪をしっかり整えて、ロングコートにジャケット、スラックスという婚活ファッションの王道の服装で参戦していました。
そこで食事中にふと気になったのが、向かいに座っているマキさんの服装でした。
よく見ると、下半身の服装がチノパンにスニーカーなのです。
それも、男性用みたいなまっすぐなシルエットの、カーキ色のチノパンだったのです。
しかも裾が長くてダブダブに余っており、足がかなり太く見えます。
スニーカーもまた、男性が普段着で履いていそうな、ぼってりとした白いハイテクスニーカーでしたが、ベースの色が白いせいで、ちょっと黒っぽい汚れがソールのあたりに目立ちました。
形容するならば、90年代の男子大学生! (シシ坊は大学時代そんな格好してました)
着こなしの中に、女性らしさがまったく感じられないのです。
(うーん……この格好で婚活に来るって……?)

マキさんのチノパン&スニーカーに気づいた瞬間、シシ坊はオスとしてのテンションが下がるのを感じました。
■食事代を払う理由なくない?
そもそもシシ坊は、パンツ姿よりもスカートにヒール姿のほうが、相対的にテンションが上がります。
現状、ほぼ女性専用のアイテムであるスカートとヒールを履いてくることは、異性として見られるための努力が感じられ、本気で勝負しに来ているように思えるからです。

一部、例外はあります。たとえ体型を隠すパンツにぺたんこ靴でも、上下ジャージみたいな格好でも、関係なく惹きつけられてしまう女性が、いたことはいました。
一体なにが例外だったのかというと、顔がものすごく美人でした。
身もフタもない話ですが、結局は見た目の総合力が高ければいいのです。
しかしマキさんは、その例外に当てはまる人ではありませんでした。
こちらはアイロンをかけたジャケットとスラックスでしっかり固めてきているのに、彼女は色気のまるでない、はっきり言って手抜きの格好。
(これで食事代まで俺が出すのって、納得いかない……)
そこまで思いました。
■なぜ男性がデート代を全額出すのか
そもそも男性は、婚活パーティの参加料だけで女性の十倍以上の高い料金を払っているのですが、
そのうえさらに初回のデート代は全額出すことが習慣となっています。
(場合によっては、二回目以降も全額出すことを暗に要求されます。)
なぜ男性はデート代を全額出すのか?

その建て前は、「女性を大切に扱いたいという気持ちを、形であらわせるから」でしょう。
女性にとっても、男性がデート代を全額出すかどうかが、自分を大切に扱ってくれそうかどうかを計る基準になっていると思います。
しかし、ぶかぶかのチノパンと汚れたスニーカーでやってきた女性を、はたして世の男性は大切に扱おうという気持ちになるでしょうか?
「こんなもんでいいでしょ、あなたみたいな男性には」
と舐められている女性に、わざわざお金と時間を投資することになるのです。
そして先ほど建て前と書きましたが、本音は「婚活女性にナシ判定されるから仕方なくおごる」です。

シシ坊は自然恋愛で出会った女性とのデート代は、ワリカンで済ませることが多かったので、まだ婚活をはじめて一ヶ月の当時、この習慣を受け入れきれていませんでした。
人生初の仮交際相手、メグミさんにSNSをブロックされたのも、もしかしたらデート代を全額払わなかったせいかもしれません。
(まあ、どう見ても向こうが払いたがっていたとしか見えなかったんですが……)

だからせめて、デート代を男性が全額出すなら、せめて女性は身だしなみくらいきっちり整えてきてほしいと思っていたのですが、
マキさんは、そこをゴッソリ手抜きしているのです。
とはいえ、性格はとても腰が低くて丁寧だし、フィーリングが合いそうな直感があり、見た目の問題をのぞけば、今のところ何も問題なさそうなのです。
(チノパンとスニーカーくらいで目くじら立てるべきじゃあないのかなぁ……)
モヤッとした不公平感がただよいながらも、まだまだ彼女の良いところを見ようという余裕は、この時にはありました。
続きます。
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