39歳の事務員トモコさん、37歳の薬剤師マキさんとの仮交際を同時進行するシシ坊(42)。


マキさんに「美術館は興味ないです」と言われてしまい、代わりに水族館デートを提案したら、
「水族館はまあまあですね」と云われてしまいました。
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■ヘンな人なんじゃないか?

たぬちゃんという女性アドバイザーの意見も取り入れ、自信をもって提案した水族館に、まさかの「まあまあ」をくらったシシ坊は、ショックを受けてしまいました。
「興味ない」とバッサリ云われてしまった美術館デートよりは興味をしめしてもらえているみたいですが、
それにしても「まあまあ」とは、ずいぶん上から目線の感じがします。
そんな状態では、とても「じゃあ水族館にしましょう」とは云えませんでした。
シシ坊はやり取りを保留して、すかさずたぬちゃんに相談しました。
たぬちゃんもさすがにマキさんの返信には驚いたようでした。
「まあまあって……なんか失礼じゃない? シシ兄に提案させるだけさせといて……。私だったら『じゃあどこだったらいいんですか?』って聞いちゃうよ」

「やっぱ、たぬちゃんもそう思うかい?」

「こういっちゃなんだけど薬剤師さんって、コミュニケーションの取り方が独特というか……ちょっと変じゃない? シシ兄、仮交際すすめて本当に大丈夫なの?」
「うーん……」
マキさんのことを『変』だというたぬちゃんの考えを、シシ坊はとっさに否定できませんでした。
じっさいSNS上での彼女の言動は、ちょっとおかしいと感じているのです。
しかし先日カップリング直後にお昼ごはんをいっしょに食べたときは、礼儀正しくて物腰もひくく、別に変人のような印象はなかったのです。
ゴンドラ入場へのこだわりは異常に強かったですが……

(ゴンドラ入場のお話は➔29話)
なので、この時点ではまだ仮交際をやめようなどとは思いませんでした。
「聞いてくれてありがとうたぬちゃん。やっぱりもうすこし様子を見てみるよ」
シシ坊はそう云うとすぐさまマキさんとのチャットに戻り、返信をこころみました。
■「まあまあ」ならやめましょう
とはいえ、すでに二回もデートにダメ出しをされている状態です。
気力が削がれてしまっており、積極的に三回めのデートを企画する気がありませんでした。
正直たぬちゃんの言うとおり、「だったらマキさんが考えてよ」と思ってもいたのです。
そのため返事はこのような感じになりました。

「そうですか! 『まあまあ』位ならやめておきましょう!」
そう送ったきり、放置して様子を見ることにしました。
マキさんが人並みの感性の持ち主なら、シシ坊の文章から態度が変わったことに気づくはずです。
これでも彼女が何も感じることなく、頓挫しかけた会話の流れを戻す気もないならば、べつに仮交際終了でいいや、とすら思っていました。
その半分投げ出した戦略が功を奏したのか、その後マキさんから返ってきた返事は、こちらの溜飲を少し下げてくれるものでした。
「なんか、すみません」
何に対してすみませんなのか、言葉が端的すぎてわかりません。
が、謝っているということは、こちらの感情の変化を文面で読み取り、柔軟に反応しようとしているのですから、最低限、会話を成り立たせる力はあるようです。
(たぬちゃんが言うほど、『変な人』でもないな)
シシ坊はそう思いました。
ただここは即答せず、ひと晩くらい返事を寝かせたほうがいいと思いました。
その間に、シシ坊はもうひとつやろうとしていることに取り掛かりました。
それは、トモコさんとのデートの約束です。
■トモコさんと釜飯

トモコさんとはすでに、次の週末の休みに会おうという意向を伝えてあったので、お誘いするとすぐにOKの返事をもらうことができました。
じつはこの日の昼間はマキさんと会う予定日でもあるのですが、マキさんとのデートプランが固まらないので、正直どうなるかわからない状況です。
そのため万一、マキさんとの予定がつぶれても貴重な休日を無駄にしないよう、トモコさんで保険をかけたというわけです。
いちおう時間はバッティングしないよう、トモコさんは夕食に誘うことにしました。
「何か食べたいものありますか?」
そう訊くと、トモコさんは「釜飯が食べたいです」と言いました。

「わかりました、釜飯ですね!」
シシ坊は快諾し、ネットでお店さがしをはじめました。これがなかなかむずかしい注文でした。
釜飯は和食のコースの締めにおまけ程度で出てきたりはしますが、釜飯がイチ押しという店はさほど見かけませんでした。
あったとしても交通の便が悪かったり、庶民的すぎたり、あるいは高級過ぎたりしました。
しかしやがて、釜飯がイチ押しの看板メニューである、個室のきれいめな和食屋を恵比寿に見つけることができました。
すぐに予約を完了させ、一時間後にはお店を決めたという連絡をトモコさんにすると、「楽しみです!」という返事が返ってきました。
トモコさんとの夜デートは、お誘いからアポ承諾までたった一時間ほどで確定しました。
このスムーズさと比べると、デートプランに二度も水を差してきて、今後の交際すら微妙な雰囲気になってしまっているマキさんは、どうしてもよく思うことができません。

はやくも心が離れてきた気がしました。
(もうトモコさん一本に絞ろうかしら)
そう思いはじめていた、次の日の朝。
マキさんから返信がありました。
「あの……すみません」
出だしは何だか少し申し訳なさそうです。
続きます。
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