39歳の事務員トモコさん、37歳の薬剤師マキさんとの仮交際を同時進行するシシ坊（42）。
マキさんにデートプランを二回連続でダメ出しされて気持ちが萎えてしまい、先にトモコさんとの釜飯デートを取り付けました。
するとマキさんから返信があったのです。
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■最初からそう言ってくれれば
「あの、すみません……ランチのあと、映画を観に行きたいかなって思ってます」
返事の内容は、マキさんからの映画鑑賞デートの提案でした。
ちょうどデート場所が新宿なので、映画を観るには困らない場所です。大型のシネコンがたくさんありますし、昼食のあとに歩いていける距離なのも便利です。
シシ坊も新宿で映画を観るという案も頭をよぎってはいたものの、『初回の映画デートは悪手』という考えがあり、敬遠していたのでした。
なぜ悪手かというと、画面をながめている二時間以上の間、まったく会話ができないからです。
ですが会話の時間は昼食の時にたっぷりあるし、話し疲れた頃にだまって過ごせる映画はむしろ、婚活デートにちょうどいいかもしれません。
総じて受け身だったマキさんが、はじめての能動的な態度を示してくれました。
しかしそれなら最初から、映画を観たいとはっきり言ってほしかったと思います……
何しろこちらが時間をかけて考えた企画を二回もつぶされ、何も決まらずに、あれから二日ほど時間を浪費してしまっているのです。
「じゃあ映画にしましょう。何が観たいですか？」
いろいろ心のうちで思うことはあるものの、シシ坊はそう切り返しました。
するとマキさんは、
「『フォルトゥナの瞳』が観たいです！」
というリクエストをしてきたのです。
■婚活のあと観に行ったんですね！
（マジか、『フォルトゥナの瞳』かよ……）
シシ坊はちょっとあせりました。
『フォルトゥナの瞳』はすでに一昨日、トモコさんと観に行ってしまっていたのです。
できればマキさんの希望に沿いたいのですが、さすがにシシ坊も同じ映画を連続で観たくはないです。
やむなく、すでに鑑賞済みであることをマキさんに伝えました。
「もう観に行ったんですか！？ すごく早いですね……」
マキさんは驚いていました。
それもそのはず、トモコさんと『フォルトゥナの瞳』を観に行ったのは、公開当日だったのです。
「おととい観に行ったんです、すいません。ほかに何か観たい候補はないですか？」
そうたずねるとマキさんは代替候補として『マスカレードホテル』を挙げてくれました。
こちらは2019年2月当時、公開からけっこう時間がたっていた映画で、あまり混雑もしなさそうでした。
「わかりました、では『マスカレードホテル』にしましょう。座席予約を取っておきますね」
これでようやく行程がすべて決まりました。
結果的に、翌週の日曜日はマキさんとトモコさんの二人とデートすることになりました。
予定をまとめるとこのような形です。
12:50〜13:00 マキさんと新宿で待ちあわせ
13:10〜14:00 カレー屋さんで食事
14:00〜14:45 喫茶店でデザート
14:45〜15:10 映画館へ移動
15:30〜17:45 『マスカレードホテル』鑑賞
17:45〜18:30 マキさんと別れ、恵比寿へ移動
18:30〜18:40 トモコさんと恵比寿で待ちあわせ
19:00〜21:30 和食ダイニングで釜飯つきのコース
21:30〜23:00 バーで飲み直し（展開次第）
こうして見ると、それほど忙しい予定には見えないかもしれませんが、実際はけっこうなエネルギーを使うことになるでしょう。
たんに40代という体力的な問題もありますが、婚活デートは、ほかの物事の予定とはまたちがった神経の使い方をするからです。
まだ婚活をはじめて二週間と間もなく、その出会いの新鮮味をあじわうのに夢中だったこの当時のシシ坊は、とても気ぜわしく、浮足立っていました。
当日を楽しみに待ちながら、平日はとくに情熱のわかない仕事を淡々とこなしました。
夜は帰ってひとり酒を飲み、自分のもとを去っていった歴代の彼女との出来事をおもい返しました。
とくに三人の女性と同棲した、25歳から40歳までの十五年間を、毎晩酒の肴に噛み締めました。
自分がしたいときに、いつでも結婚できた十五年間でした。
（それがどうしていま、俺は婚活なんかしているのか）
ふと我に返り、昔の自分の行動を毎晩のごとく悔やみました。
しかしだからこそ、婚活で知り合う女性には、今度こそ責任をもって結婚前提で交際しよう、彼女たちの時間をいたずらに奪ったりしない、と決意を新たにすることができました。
成婚率は1パーセント程度といわれている婚活パーティで、シシ坊が結婚できたのは、容姿でもスペックでもなく、過去の失敗からの学びがあったからだと断言できます。
はたして、デート当日の日曜日はおとずれました。
続きます。
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