第40話: 婿入り後出し遺産相続チノパン薬剤師マキさん Part.3

マキさん(37)の実家は六畳ひと間のワンルーム。しかも彼女の給料は全額、実家に吸い上げられていることが判明し、驚愕するシシ坊(42)。

裕福な家庭で育てられた箱入り娘なら、37歳で実家暮らしなのも仕方ないか……と受け入れていたのですが、これではちょっと話が違います……

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第39話: 婿入り後出し遺産相続パニック90年代薬剤師マキさん Part.2

メンヘラ女子でも気にしません

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■疑いから目をそらす

都心の六畳のワンルームで、なぜか玄関先まで物があふれていて客人をまねく空間もないような実家で暮らしているマキさん。

そして彼女のお給料は父親の事業のため、専業主婦の母親を食べさせていくために全額を使われてしまっている……

訊いただけで良くない想像がどんどん広がっていきそうな、驚愕の事実でした。

ただ、この時点ではまだ、マキさんと結婚したいというシシ坊の意思はゆらぎませんでした。

マキさんがシシ坊の家に嫁いでくれば、彼女の姓も変わるし、べつべつに暮らすのだし、実家とは距離を置くことになるはずです。

彼女のお給料だって、父母の生活のためではなく、ふたりの新しい家庭を築くために使えるようになるはずだし、そうなって当然だ! と、楽観的に考えていました。

ただ一方で、自分の予想どおりにはならなかった時のことまで考えをめぐらす余裕もシシ坊にはありませんでした。

彼女がいない生活を二年近くも続けてストレスが積み重なっており、そのせいでうつ病も悪化していたため、一刻も早く結婚しなければという焦りが、判断をくもらせたのです。

いや、くもらせたというよりは、意識的に目をそらしていたのかもしれません。

これは巨大な氷山の一角に過ぎず、まだほかにも恐るべき事実が隠れているかもしれない……などという疑いは、三ヶ月以内での入籍をめざすのに、邪魔になってしまうからです。

■婿(むこ)入り話ふたたび

それから数日後の日曜日に、またマキさんと会いました。

この日は代々木のレストランでお昼を共にし、その後は散歩しつつ明治神宮を通り抜けて、原宿まで行こうというコースでした。

レストランはこの界隈では人気のイタリアンで、店内に入ると着飾ったご婦人方がおしゃべりを楽しんでいました。

Instagramにキラキラしたお料理の写真を上げていそうな、意識の高い女性たちのたまり場です。

しかしマキさんはというと、この日もチノパンにハイテクスニーカー、ダッフルコートという学生ファッションでした。

席に案内されたとき、彼女たちがマキさんにちらりと向けた ” 女の視線 ” に、シシ坊は気まずい思いをしました。

マキさんの基本はあくまでメンズファッションで、第39話のスカートの時もそうでしたが、女性のアイテムを身につけるのは一点だけ、というのが彼女の限界点のようでした。

(結婚したらこの先一生、これ以上の格好は望めないのだな……ハァ……)

シシ坊は心の中でため息をつきました。

とはいえ、お店のサービスと料理のほうは素晴らしく、パテ・ド・カンパーニュやパルマ産生ハムとパルミジャーノの盛り合わせ、うにとずわい蟹のタリオリーニといったおしゃれな名前の料理に舌づつみを打ちつつ、いい雰囲気でデートは進みました。

そしてその最中、ついに問題の火ぶたが切り落とされたのです。

「ねぇシシ坊、前にちょっと話した、ふたりの結婚の形についてなんだけど……」

「え、うん……?」

「やっぱり、婿に入ってもらうということを考えてほしいの」

「え!?」

シシ坊は面食らいました。婿入りの話は本交際をはじめた時(第38話)にきっぱりと断っているので、またその話が出てくるなどとは考えてもいませんでした。

嫁入りか婿入りか、などというのは結婚のもっとも基本的な条件です。

この段階で合意できない相手なら、交際するだけ時間の無駄です。アラフォーの婚活には時間がないのですから、嫁か婿かとモメている暇があるなら、べつの相手を探したほうが良いのです。

だからこそ最初にはっきりと断ったのに、マキさんはそれを蒸し返してきたのでした。

「いや、でもさ……婿入りはダメだって、一番はじめに言ったよね?」

「それが、ここ何日かで事情が変わったの……!」

「事情が変わった? 」

マキさんは事情をいろいろと説明しはじめましたが、それがどうも要領を得ませんでした。

基本的な話の筋は、父親が嫁に行かせたくないということで『やはり家を継ぐ男子が必要だ』などと云い出しているようした。

しかしなぜ、ここまで娘の結婚へ露骨に干渉してくるのか、その訳がいっこうに見えてきません。

心なしか、あえて説明を避けているようにも思えました。

見えてこないので、まだ一度も会ったこともない父親の印象はすっかり良くないものへと変わりました。

『どうしてもなら嫁にやるのも仕方ない』だとか『娘に負担をかけるのは申し訳ないが』という台詞のひとつひとつから、他家に娘をやるつもりはさらさらないという本音が伝わってきます。

しかし彼女の父親は絶望的ですが、母親はどうなのでしょう?

母親がまだしも違う意見を持っていれば、そこにまだ望みがあるかもしれません。

「マキのお母さんは何て云ってるの? お母さんも嫁に行くのは反対なの?」

シシ坊が思い切って切り込むと、マキさんは困ったように目を泳がせました。

「じつは結婚を考えたい彼氏がいるっていうような話を、こないだちょっとお母さんにしたのね」

「うん……(” いるっていうような ” とか、” ちょっと ” って何だよ……)」

「そしたら、ひと言めで『なに!? その人は婿入りしてくれる人なの?』って云われちゃって……」

(ガッチガチだなおい!)

絶望的です。父親のみならず母親も、強固な婿入り婚支持者であることが判明してしまったのです。

『ここ数日で事情が変わっただと? そんなの信じられるか……』

『はじめから婿入り話を後出しするつもりだったな?』

シシ坊は驚きだけではなく、怒りを感じはじめていました。

■婿にこだわる理由が判明

「何でそこまで婿入りにこだわるわけ?」

シシ坊は湧き出る驚きと怒りの勢いにまかせ、本音をぶつけにかかりました。

「云っちゃなんだけどマキ……娘の幸せを考えるなら、ふつう親がそこまで口出しするか? って、疑問に思っちゃうんだけど……」

「うん……」

「それにマキはどう考えてるの? 三年も婚活が長引いて、いま37歳なわけじゃん……子どもも欲しいならもう待ったなしだというのに、マキはそれでいいの?」

さっきから伝わってこない部分を聞き出そうとしました。

親が婿入りさせたがるその理由と、マキさん自身の思い。

結論から云うと、マキさん自身がどういう考えなのかは、本交際の間に明らかにされることはありませんでした。

親に云われるがまま婿入りに従うつもりなのか、それとも親を吹っ切ってでもシシ坊の家へ嫁に来たいのか、マキさん自身もどう思っているのか、わからなかったのかもしれません。

その代わりに、親が婿入り婚にこだわる理由は、ついに明らかにされようとしていました。

「遺産があるの……」

「え?」

「うちには親族の遺した家や土地やお金があって……その遺産を相続するために、婿を立てる必要があるの」

「遺産だって!?」

続きます。

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