第41話: 婿入り後出し遺産相続チノパン薬剤師マキさん Part.4

きっぱり断ったはずの婿(むこ)入り話を「事情が変わった」のひと言で再浮上させたマキさん(37)。

「なぜそこまで婿入りにこだわる!?」

あまりにも露骨な後出し攻撃に、憤ったシシ坊(42)が詰め寄ると、マキさんは実家の遺産相続問題をほのめかし始めたのです……

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第40話: 婿入り後出し遺産相続チノパン薬剤師マキさん Part.3

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■妹夫婦と戦え

「何年か前に私のおじいさんが亡くなってね」

マキさんはその重たい話題を、やにわに切り出し始めました。

それによると彼女の祖父は生前に北関東の○○県で農家をやっていたらしく、死後に家や農地、農具などの資産が遺されたそうです。

祖母もすでに他界しているため、遺産を相続するのはその子ども達。

長男であるマキさんの父親と、その妹(マキさんの叔母)のふたりがいます。

それがどうやら遺産の取り分をめぐって揉めているようなのです。

「そうか……大変なことだね……」

シシ坊はため息をつきました。

「この世に残されたたった二人の兄妹なのに……仲良く五分五分に、公平に分けるというのじゃだめなのかい?」

「だめなの。父の妹は、遺産を全部取ろうとねらっているのよ」

「全部? どうしてまた……」

「お父さんも、何とか自分が相続しようと頑張っているんだけど、どうしても立場的に弱くって押し切れないの……。

(なんで? 長男なのに?)

一般的には、嫡男こそが家督や遺産の第一相続人となるのは普通のことではないでしょうか。

それがなぜ立場的に弱いのか、とっさには解せませんでした。

マキさんは、ウニのスパゲッティを食べる手を完全に止めて話し続けます。

「で、孫のわたしが相続するという手も考えたんだけど、そこは古い農家のしきたりで、女だとどうしても親族からの理解を得づらいのよ……」

「それを云うなら、マキの叔母さんだって女じゃないか」

「父の妹は結婚しているから義理の息子を立てられる。その分わたしよりも有利なの」

「うーん……」

だったらやはり長男であり、既婚者でもある父親が一番、ということにならないでしょうか?

それで何の問題があるというのでしょう。

妹も妹で、妙です。

なぜ、女性が前に出るのを嫌がる農家の旧習にあらがってまで、ましてや実の兄とあらそってまで、遺産を全取りしようとしているのでしょうか?

あとでシシ坊はそれらの理由を察したのですが、この時は話を訊いたばかりで勘が働きませんでした。

「でもシシ坊が婿に入ってくれれば、わたしも男子を立てられるから」

マキさんは言葉に力を込めました。

「立場的には父の妹夫婦より強くなるし、私たち一家が遺産を相続できるようになるの。いろいろ考えたけど、お父さんではやはり相続がむずかしくて、私たちにはもうこれしか手段がないの」

遺産相続の戦略を熱っぽく語るマキさんの手元で、ウニのタリオリーニは完全に冷え切って生気を失い、皿の上に沈んでいました。

■遺産相続の手駒

(いやもう……何だよそれ……訊いてないよ……)

どうにも話を処理しきれません。

ことわったはずの婿入り話を蒸し返され、そのうえ父親の遺産相続問題ときました。

私たちは三ヶ月以内に入籍する予定なのに、そんな面倒くさい事情に付き合っているひまなどある訳がありません。

こちとら遺産なんかどうだっていいのです!

しかし、かといってマキさんが実家をすっぱりと切り離してシシ坊のお嫁さんとなり、ふたりで自活していけるのかというと、けっこう厳しい気もしてきました。

両親は、ひとり娘のお給料を全額もらわなければ暮らしていけないワンルーム暮らし。

娘は娘でパニック障害を抱え、何かと母親の助けを必要としている。

そんなべったり共依存な状況を抜け出そうとする意思の力が、マキさんからは感じられません。

『親の意向がこうだから、実家の事情がこうだから……』

そう云うばかりで、肝心のマキさん自身がどうしたいのかが見えてこないのです。

こう云ってはなんですがシシ坊は、マキさんの両親や実家というものが、私たちの結婚に何ひとつ幸福をもたらさない、うっとおしい邪魔者としか思えなくなりました。

それにしたってひどい条件だと思いませんか?

他人の遺産相続を助けるために婿に入って、妹夫婦を敵にまわして戦って、いったいシシ坊に何のメリットがあるのでしょうか?

彼らに遺産をびた一文渡したくないという、妹夫婦の気持ちがわかるような気がします。

マキさんの口からは、妹夫婦はさも遺産を横取りせんとする悪者かのように語られますが、シシ坊の推理ではそうとも云い切れません。

おそらく父親は遺産を相続できたら、それを事業の運転資金につぎ込むつもりなのでしょう。

しかし彼には残念ながら、経営の才能はありません。

もし事業をうまく廻せていたなら、二十年近くも妻子を六畳ひと間に押し込めて、娘の給料まで搾取するはずがないからです。

妹からすれば、ろくでもない兄が亡父の遺産を使いつぶそうとしていることになります。

そうなれば、全力で相続を阻止したくなるのが普通ではないでしょうか?

要するに彼女の両親は、遺産を手に入れるための手駒が欲しいだけなのです。

そこに娘の幸せだとか、将来の娘婿への思いやりといったものは感じられません。

(そりゃあマキ、婚活が長引くわけだよ!)

いきおい、喉までそう出かけました。

彼女が婚活してきた三年間、いったい何人の男性と出会ったのか知りませんが、こんな条件を引っさげていたのでは、そりゃ、こじらせるに決まっています。

ですがシシ坊はそれでも、マキさんとの結婚をあきらめる気はありませんでした。

しかし本音をいえば、『あきらめる気力がなかった』のです。

このままマキさんと交際を続けても、あまり良い展望がないような気はしたものの、破局したとなれば、また相手を探すところからやり直さなくてはなりません。

42歳という年齢で、それだけの時間を棒にふるのは本当に辛いことなのです。

『今さら振り出しに戻れるか! こうなったら何がなんでも嫁に来てもらうぞ!』

シシ坊は自分を奮い立たせました。

マキさんは自分の意見がなく、両親に操られているだけのように見えたので、シシ坊が押しまくればきっと嫁に来てくれるのでは、という期待も少しはあったのです。

しかし次回、スーパーこじらせ婚活女子・マキさんの、さらなるこじらせ大鉄槌が振り下ろされ、シシ坊は時速70キロで背後に吹っ飛ぶこととなるのです……

続きます。

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